安房の入り口にある鋸山(のこぎりやま)は、ギザギザと切り立つ岩肌からその名がついた山です。標高330メートルの低山ながら、ロープウェイあり、開放感あふれる絶景あり、日本一の大仏あり、地獄のぞきあり、石切り場跡あり。見どころ満載の鋸山は、景色に飽きることのないトレッキングに最適な場所です。
今回は、鋸南町(きょなんまち)在住ライターが、ロープウェイで展望台に登り、鋸山一帯に広がる日本寺の境内を散策、そして登山道をトレッキングするというおすすめのトレッキングコースをご案内しましょう。
このコースは、急な階段や足場の悪いヶ所もあるので、小学校中学年以上の方向けにおすすめです。途中から登山道へ入っていくので、トレッキングシューズや登山靴を履いていくことをおすすめします。
ちなみにトレッキングとは、登頂を目指す登山と違い、山や自然の景色を楽しみながら歩く、山歩きのことです。
鋸山ロープウェイのふもと駅
鋸山のいいところは、ロープウェイで登れるので、高齢の方やお子さんも、東京湾一望の絶景を気軽に味わえます。約4分で山頂駅まで一直線。
ロープウェイから眺める鋸山の岩肌、そして、一望できる東京湾にも美しさでため息が出ます。
山頂駅の展望台から見た房総の山々
ロープウェイを降りるとすぐ、建物内から展望台への階段が続いています。そして外へ出ると、この景色が待っているんです。上の写真は鋸山から東方向(内陸側)を撮影したものです。くるっと回って西側には、運がよければ東京湾越しの富士山も見えますよ!
さあ、ここから先に足を伸ばしていきましょう。
小さい子どもも登れる森の遊歩道
山頂駅の展望台をあとにし、ぐんぐん道なりに進んでいくと、日本寺境内へと続きます。
拝観料を支払い境内へ入ると、階段を降りるルートと、写真の遊歩道を登っていくルートに分かれます。どちらを通っても大仏へたどり着けるので、お好きなルートを楽しんでくださいね。
それでは、羅漢像(らかんぞう)を見物しながら、日本一大きい大仏を見にいきましょう。ちなみに羅漢像とは、仏道修行者や聖者の群れのことをさしており、日本寺には1500体以上もの羅漢像があります。(ちなみに、大仏をすぐ見たいなら階段を降りたほうが近いです)
日本寺境内にある日本一大きい大仏
鋸山には、日本寺というお寺があり、大仏が鎮座しています。日本寺の大仏はあまり知られていませんが、実は日本一大きいんですよ! まずは、日本一大きい大仏を見に行ってみましょう。自然石で作られた高さ31メートルの大仏です。大きくて有名な奈良の大仏は約15メートル、鎌倉の大仏は11.3メートルなので、日本一大きい大仏は日本寺の大仏なんです。ただ大きい大仏がかまえているだけではなく、そちらへ続くルートはアジサイや四季折々の花が咲いているので、休憩スポットとしても人気です。
大仏を見学した後は、ぐんぐん階段や坂道を上っていくと、“鋸山と言えば”の「地獄のぞき」へと続きます。
地獄のぞきは、急な階段と急な崖をよじ登るので、女性はパンツスタイルで行ってくださいね。
地獄のぞき。鋸山の岩肌がそぎ落とされ突き出ています
みなさんは、地獄をのぞいてみたいですか?それとも、足がすくんでしまうでしょうか?ちょっとした肝試し的なスポットです。私はぴょんぴょん飛び跳ねるくらい、大好きな場所です。いつも強気の人が怖がる姿を見るのも、楽しいですよ!
続いて、地獄のぞきを後にし、今度は階段を下ります。急な階段を下り終わると右手に曲がる場所があります。すると…
私のお気に入りスポット。切り立つ岩と清涼感あふれる小路
個人的に、鋸山でいちばんのお気に入りの場所がこちら。私のパワースポットです。
岩と岩の間のひんやりとした空気と、苔むした昔使われていただろう階段、上を見上げれば木々のトンネル。大きく深呼吸をすると、とても癒されます。もう、ここのためだけに鋸山に来てもいい!と思える、そんなすてきな場所です。
百尺観音
先ほどのパワースポットを抜けると、百尺観音があります。かつて石切り場だった場所に彫刻がほどこされており、世界戦争戦死病没殉難者や交通犠牲者の供養のために作られました。
日本寺は、先ほど紹介した千五百羅漢像(らかんぞう)のエリアや、日本一の大仏などの他にも、山一帯が静寂な空気に包まれていています。季節の花を愛でつつ、ゆっくりとお寺を参拝するのもおすすめです。ちなみに、この百尺観音の場所から地獄のぞきを見上げることができます。
地獄のぞきを下から見上げて
鋸山の地獄のぞきは、当然ながら上から下をのぞく場所ですが、実は、地獄のぞきを下から見上げるのも、とても楽しいんですよ。
「ワー」「キャー」言っている情けない声が聞こえてきたり、平然と景色を楽しみ写真を撮る方がいたり。人間ウォッチングもできます。地獄のぞきを見上げるこの場所は、あたり一帯が岩肌に囲まれ、ひんやりとしていて気持ちのいい場所です。
百尺観音エリアは、登山道の入り口にもなっています。
登山道(車力道と関東ふれあいの道)に行った人しか見ることのできない石切り場跡
いよいよ鋸山の真骨頂、ここからは、日本寺の北口管理所(先ほどの百尺観音の場所)を抜け「車力道(しゃりきどう)コース」へ。同じ場所から出発の「関東ふれあいの道コース」もありますが、私のおすすめは車力道コースです。なぜって? 先人の息吹きを熱く感じるからです。鋸山の石は、房州石といい、昭和初期まで建築資材として重宝されたとか。なんと、皇居のお堀にも鋸山の石が使用されています。
車力道コースの途中、巨大な岩を切った跡があります。どのようにここから切り出したのか? どうやってここまでのルートを作ったのか? 想像を巡らせると、人間の力のすごさに圧倒されます。自然あふれる中に、人の手の入った人工的な美しさをも感じます。その跡が朽ちてツタが絡んでいるところをみると、鋸山の歴史の深さに圧倒し、ちっぽけな悩みなんて忘れさせてくれます。鋸山の石切り場はそんな壮大な場所です。
地球が丸く見える展望台
先ほどの石切り場を過ぎると、車力道をそのまま下山するルートと「地球が丸く見える展望台」ルートのふたてに分岐します。
せっかくなら「地球が丸く見える展望台」で、本当に丸く見えるのか?みたくなります。しかし一度中腹まで下山してきたのに、再び山頂付近までかなり険しく急な階段を登っていくことになるので、体力に自信がない方は無理しないでください。この場所は本当に急で険しい階段です。
「やっほー!!」
海に向かって叫んでも、山びこは帰ってこないんですけどね。爽快で、思わず叫ばずにはいられませんでした。
地球が丸く見えたかどうかは…? 登る楽しみが半減してしまうといけないので、内緒です。
ちなみに、富士山はきれいに見えましたよ!
のこぎりのような岩肌がそこここに
車力道は、その名の通り、石を運んでいた道です。地球が丸く見える展望台を戻る途中も、急な階段や滑って歩きにくい場所も多々ありますが、ひたすら歩くと、急に石畳の人がすれ違うのがやっとの小路がでてきます。よく見ると、車輪の跡が途切れなく続いています。
そう、この道こそが石切り場から海まで石を運んでいたルートなのです。
車輪の跡
「疲れたね~、ひと休憩しよう」
なんて言っていた自分の未熟さに、情けなくなります。 この道を何度も何度も往復して、切り取った石を運んでいた方々がいたなんて…。もっと言えば、その石を運ぶための、この石畳の道を作ったのも人の力。そう感じると、静けさを感じていたこの場所に、パーっと人の息吹きやエネルギーを感じました。耳を澄ませば、風で木々がサラサラと揺れる音や、小鳥のさえずりも聴こえ、小川のせせらぎも岩に響き渡ります。初めて鋸山に登ったとき、こんなに都会に近い場所で、こんなにも森と人のエネルギーを感じるところは初めてでした。
ちなみに北口管理所をでてから車力道コースを下山するコースは、おおよそ1時間というところです。滑りやすかったり急な場所もあるので、足元にご注意ください。
鋸山は、私にとって何度でも行きたい場所です。今回はこちらのルートを紹介しましたが、登山道も何本もあり充実しているので、健脚な方は登山ルートも楽しめますよ。
鋸山は魅力の宝庫です。次に訪れる時には、また新たな発見が待っていそうな予感がします。