千倉カフェのさきがけ。千倉と海とコーヒーを愛する名店/

Sand CAFÉ (南房総市)

公開日: 2018年06月18日

安房地域で“カフェ”というと南房総市千倉町の名前が出てきます。太平洋に面した千倉町は、水平線をダイナミックに望むロケーションを持ち、サーファーやバイカー、近年ではサイクリストにも人気の町。その海辺の町にカフェが多いのは必然と思われるかもしれませんが、千倉カフェの歴史を紐とくと、一軒のカフェがきっかけになり、千倉のカフェ文化が花開いたことがわかります。

 

そのきっかけになったカフェこそが、今回ご紹介するSand CAFÉ(サンドカフェ)。今年でオープン25年目を迎える老舗の名店には、千倉と海とコーヒーを愛してきた時間が確かに流れていました。


千倉の町とヘミングウェイの世界を重ねた“海の小屋”


JR内房線千倉駅から海へ降りて行くと突き当たる「房総フラワーライン」。千倉の海岸通りであるこの道沿いにサンドカフェは建っています。シックなブルーグレイの外壁と真っ白な窓枠、レトロな三角屋根の上のくじら風見鶏が目印。遠い異国の港町に佇んでいるような店構えです 。


 

シンプルなドアを開けると、出迎えてくれるのはコーヒーの香りと穏やかな笑顔のマスター、込山(こみやま)さん。店内は木造で、込山さんが愛するE.ヘミングウェイの名作『老人と海』がモチーフ。



E.ヘミングウェイは20世紀のアメリカ文学を代表する文豪のひとりです。そのヘミングウェイの名作『老人と海』は、老いた漁夫とカジキマグロとの闘いを通じて描かれる人間の孤独や尊厳をテーマにした作品。その小説の世界観が千倉の海の雰囲気と似ていると思ったことからモチーフにしたのだとか。 



 「千倉の、港町らしい詩情的なあたたかい雰囲気と太平洋の生命力あふれる粗野な海が、作品のイメージと重なって」と込山さん。その想いの通り、店内は粗野で武骨だけれどもあたたかい『老人と海』の主人公が現れそうなシンプルながらも味わい深い、まさに“海の小屋”。そこに、時間が経過したからこその味わいが好きだという込山さんのアンティークや小さな植物たちがさりげなく彩りを添え、海を感じながら落ち着ける空間が作り上げられていました。


オープンから25年。“カフェの町・千倉”のさきがけ



込山さんが今の場所にサンドカフェをオープンしたのは25年前。千倉出身の込山さんは学生時代に東京へ出てサーフィンに出会い、改めて千倉のよさを認識したんだそう。卒業後は千倉へ戻り12年ほど別の仕事をしていたそうですが、憧れだった写真家・浅井慎平氏との出会いを機に、浅井氏の「海岸美術館」立ち上げに参加。このことが人生の転機になり、その後30代半ばでサンドカフェをオープンさせます。



「今とは違って、海で遊んだ帰りにちょっと立ち寄ってコーヒーを一杯飲む…そんな使い方のできるカフェのような場所がなかったから、作ろうと思って」という想いからはじまったサンドカフェ。ここから、千倉のカフェ文化がスタートしたといっても過言ではありません。実際、この時期から徐々に千倉にカフェが増え、スタッフとして働いていた女性たちが、千倉の「Horne café(オルネカフェ)」、館山の「日毎 ヒゴト」という、個性的なカフェをオープンするに至っています。


 

「海岸美術館の閉館とか古い馴染みの店の閉店とか寂しいことも最近あるけれど、若い人が千倉や館山で活躍してくれるのは嬉しいよね。オルネカフェや日毎は、ウチの定休日に遊びに行ったりしますよ。(セレクト生活雑貨店の)『安房暮らしの研究所』も千倉にできてくれて嬉しかったな」と話す込山さんの嬉しそうな笑顔が印象的でした。


 

地元の繋がりを大切にし、コーヒーも地元の複数の焙煎所から仕入れています。定番のコーヒー豆は、館山の老舗中の老舗「サルビアコーヒー」。ほかにもご近所のハーブ園「ハーブ千倉」のハーブを使ったハーブティーもはじめたそうです。

 

潮風香る、気取らない自分好みの時間を

使い勝手がよく誰にでも訪れてもらえる“間口の広い店”を目指したというサンドカフェ。「おじさんが新聞片手にコーヒー飲んだり、家族がランチしたり、おばあちゃんが甘いものをゆっくり食べに来たり…カオスな感じだよね(笑)」。



実際、客層はさまざま。10:30のオープン直後からコーヒーを飲みに来た男性がゆっくりして過ごしていたかと思うと、ランチタイムは女性グループやカップルでほぼ満席になりにぎやかに。休日ともなると、他県ナンバーの車やバイクがたくさん並んでいます。常連さんが多いそうで、安房地域はもちろん、遠くから訪れる人や夏だけ訪れる人もいるそう。確かに“間口の広い店”として多くの人に愛されています。「長くやっていると、常連さんのお子さんの成長も感じられて嬉しいですね」と話す込山さんの優しさも魅力の一つであることは間違いありません。


 

気取らずにくつろいでほしいという想いからカップ&ソーサ―ではなくマグカップでコーヒーをサーブ。カウンター越しの会話も穏やかで、込山さんの素朴なあたたかい人柄が感じられます。コーヒーのおとものスイーツは奥さんがメインで担当。季節のシフォンケーキが人気です。


 

「コーヒーとカレーの組み合わせも絶妙だよね」とオススメされたのは、名物さざえカレー。このカレーは、子どものころの思い出の味だそうで、当時はお肉が高価だったので近所の海で採れたさざえがよくカレーの入っていたのだとか。「海の近くだし地域性のあるメニューがいいなと思って。でも、案外地元の人がよく食べてくれます。年配の人は懐かしいのかな」。


 

また、メニューにアルコールがあるのもサンドカフェ流。「夜じゃなくて昼間とか、中途半端な時間に飲むアルコールって幸せだよね。けっこう女の人が飲んでいきますよ」だそうで、ヘミングウェイの名前の付いたオリジナルカクテルも、女性に人気なんだそう。ヘミングウェイが晩年住んだというキューバのラムとライムとミントを使ったさわやかなカクテルをサンドカフェで昼間に飲む…なんて、なかなか過ごせない贅沢な大人の時間。これも、サンドカフェの気取らないくつろぎの空気感があるからこそだと思います。

  

千倉とその海を愛する理由



「千倉は住むにはとてもいいですよ。恵まれた土地ですよね。特に海が好きな人にはいい」と語る込山さんも海が好きで現役のサーファー。千倉の海はすぐ近くに黒潮が流れているので年間を通じて比較的あたたかく、サーフポイントも多いのでサーファーには楽園のよう。また、釣りをしたり、ビーチコーミングをしたり…海辺を散歩するだけでも楽しく、気候もおだやかで災害も少ない“恵まれている土地”だと言います。「昔から保養地で別荘もあるし、移住者が多いから、新しく移り住んでもいい場所だと思います。半移住とかもね」。

 

  

込山さんの敬愛する写真家・浅井慎平氏は千倉の町を「光が散っている」と表現し、そのロケーションを気に入っていたのだとか。「浅井さんをはじめ、千倉にはアーティストが多く住んでいます。アーティストは感覚が鋭いから、“いい場所”を選んで住むんですよね。千倉は本当に魅力があるから、そういうアートな町にもっとなってほしいなと思う」。込山さん自身も、理想の町に向けサンドカフェ以外にもお店を展開しています。サンドカフェの隣には海の雑貨屋「Deck Shoes」、千倉の昔ながらの街並みに溶け込む実家を改装した古道具店「Days GALLERY」、南房総で人気の「道の駅・ちくら 潮風王国」の中にあるカフェ「散歩カフェ」。



「小さくても個性的なカフェやショップ、ギャラリーが点在するような町になってほしいですね。旅行者が自転車なんかで海と町を巡って楽しんでくれるような。繰り返し千倉に来てくれて、いつか住んでみたい、となったらもっといいね」と語る込山さんからは地元千倉への愛がたくさん伝わってきました。



サンドカフェが、千倉の出発点であってくれればとも語ってくれた込山さんは今年で62歳。その瞳は千倉の海のようにキラキラと輝いていて、千倉を深く愛する先駆者としての想いを強く感じさせてくれました。千倉の魅力を体感しに、まず最初に訪れたい名店は今日もゆっくりと時を刻んでいます。

 

【店舗情報】

店舗名:Sand CAFÉ

営業時間:10:30~17:00

定休日:月・火(不定休あり)

所在地:千葉県南房総市千倉町瀬戸2908-1

駐車場:6台程度

Web:http://www.sandcafe.jp/sandcafe/

TEL:0470-44-5255

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