館山市街から南に車を走らせること約20分。漁港のある相浜という場所に、小さなパン屋さんがあります。名前は富崎ベーカリー。都会からの移住者であるご夫婦が、洗練されていながらふんわりやさしい自家製酵母のパンを焼いています。
漁村の雰囲気を濃く残す路地にひっそりとした立地も、雰囲気にピッタリ。特徴はなんといっても桜を使った自家製天然酵母ですが、パンはもちろんお店の雰囲気がとてもすてきで、何度も訪れたくなるお店なのです。
かく言う私もファンのひとり。我が家の子どもたちも富崎ベーカリーのパンが大好きなんです。地元民のみならず、遠方からのリピーターも多いという富崎ベーカリーを、お店の奥さんに聞いた話を織り交ぜながらご紹介します。
昔ここにあった富崎村の名前を冠した富崎ベーカリーは、相浜漁港から小さな坂道を上って、もうひとつ路地に入ったところにあり、隠れスポットといってもいいような場所に建っています。築40年の古い家屋を都会では考えられない価格で購入し改装したそうで、そのたたずまいは独特。お店の正面に来るまではどこがお店がわからないほど周囲になじんでいます。
最初の目印は相浜漁港前の白い壁と「安田丸」の看板。その坂道を登っていくと、小さな看板が! 看板を信じてさらに奥へ進むとシックな黒壁に「富崎ベーカリー」の文字。扉をあけると、香ばしくてふんわり甘い自家製酵母パンのいい香り! 漆喰と木の柱や梁がおしゃれながらも落ち着く空間に、さまざまな種類のパンがズラリ。この香りとお店の雰囲気が絶妙にマッチしていて、とても魅力的なんです。お店までの道のりも、漁村の雰囲気を楽しみながら行ってみてくださいね。
富崎ベーカリーのパンはすべて自家製酵母が使われています。ふんわりモチっとした食感となんとも言えない酵母独特の香りは、イースト発酵のパンでは味わえないものです。
パンの種類によって生地の配合を変えているそうで、生地の配合はほとんどご主人担当。そもそも、“発酵”にハマったご主人が、なんと独学で酵母を研究し、今使用している酵母を作ったのだそうです! 今使っている酵母の桜は色々な場所から拾ってきたそうで、「(安房地域で有名な)安房神社の桜ですって言えたらすてきなんですけどね(笑)」と笑う奥さん。
酵母は生きているのでオープンから約7年、ずっと育てて使い続けているそうです。だからこそ、富崎ベーカリーのパンにはご夫婦の人柄が表れているのかもしれません。
酵母研究も独学なら、パン作りもほぼ独学だというから驚きです! もともと奥さんは、お母さんがパン作りをする人だったので子どもの頃からパン作りに触れていて、ひとり暮らしを始めてもときおりパンを焼いたり、酵母パンの教室に通ったりしていたそうですが、ご主人はまったくの素人。しかし、奥さんの天然酵母パン作りに興味を持ったご主人が、だんだん本格的にハマり、かなりの腕前になっていったそうです。
前職はご夫婦ふたりとも雑誌の編集者で、以前は都心近くに住んでいたそうですが、子どもが生まれてから「ここでの子育ては難しい」と感じ、移住を決意。千葉に拠点をおいていた時期もあったため、千葉県内で検討した結果、よい物件の見つかった相浜へ。
就農も一時期検討したそうですが、パン作りの特技を生かすためパン屋さんを開くことを決めたそうです。自営業に決めた理由は「向こうで働いていたころは、朝家に帰ってきてシャワーを浴びてまた出かけるような生活。子どもとの時間を確保するなら自営業だと思って…」。ゆったりと自分の大切な時間を過ごせる安房は、ご夫婦の移住にピッタリの場所だったようです。
富崎ベーカリーの特徴のひとつに、パンの種類が多い、というのがあります。食パンだけでも6種類。常時50種類程度のパンが並ぶ光景はいつみても幸せな気分になります。シンプルなポップにはパンの特徴がわかりやすく簡潔に書かれていて、大げさにアピールしていないところがまたすてきなんです。
種類がたくさんあるのには何か理由があるのかと聞くと、「ウチには、人気商品というような売れ筋の商品がなくて、不思議と毎日まんべんなく売れているから種類を絞れないの(笑)」と、苦笑いの奥さん。それだけ、いろいろなお客さんに愛されているという証拠なのだと思います。
夫婦ふたりでこれだけの量を毎日作るのは大変そうですが、種類を減らさないのは待っているお客さんがいるからこそ。ちなみに、新しいパンは夫婦ふたりで決めるそうで、「何度も試作しながら決めます」とのことでした。
まんべんなく人気があるということはお客さんそれぞれにお気に入りがあるということです。奥さんに聞くと、クロワッサンや丸パンなどお気に入りをまとめ買いするお客さんも多いとか。
まとめ買いや指名買いが多い理由に、富崎ベーカリーのもうひとつの特徴、サイズが小ぶりということがあるのだと思います。ひとつひとつが食べきりやすいサイズなので、一度にいろいろなパンがお試し可能。こうやってあれこれ食べた結果、お気に入りができて、リピートしたくなるのではないでしょうか。
また、食べやすいポイントは、しっかりとした生地のおいしさに支えられたパンの軽さ。ふんわりとした中にしっかりと芯があるイメージは、作り手であるご夫婦に重なります。食べ終わるとまた食べたくなるヒミツはそこにあるのではないかと思っています。
奥さんに、オススメはありますか?と聞くと、答えはシンプルな食パンでした。富崎ベーカリーの食パンは小ぶりで、男性なら一袋食べきってしまうくらいのサイズ。実は、私自身もここの食パンが大好きで、はじめて食べたときのふんわりもっちりとした食感と味わい深いその味に感動したのを今でも覚えています。そのときは小さな息子とふたり、なにもつけずに一気に一袋完食してしまいました。
「酵母を活かした生地を味わうにはシンプルな白い食パンが一番。毎日食べても食べ飽きないよね」という奥さんですが、「お客さんからオススメを聞かれたらそう言うんだけど、結局食パンは買わない人が多いんだよね(笑)」だそう。ぜひ一度富崎ベーカリーの食パンを味わってみてほしい、と私も思います。しっかりとした生地なので、翌日の朝でもおいしく食べることができますよ。
最後に、私と息子のお気に入りを紹介させてください。息子のお気に入りはなんといっても星パン! 味もシンプルでかわいい星の形のパンです。一緒にお店に行くと必ずほしがって、店内でパクリなんていうことも。ちぎりやすく持ちやすいので、幼児期のお子さんにもオススメですよ。
私のお気に入りは、「トマトとアンチョビのピザ」と「カシューナッツとクランベリー」、「野沢菜パン」の三つです。噛み応えのある味わい深い生地に絶妙な配分量の具材とパンに合う味付けがとても気に入っています。
それから、富崎ベーカリーのパンを買って、すぐそばの相浜海岸で食べるのもお気に入りです。お天気がよければ富士山が臨めるキレイな海を見ながら食べるパンは格別! サンドイッチの具を持参して、食パンに挟んで即席サンドイッチランチもよくしています。
食べ終わったら海岸で遊んだり、ビーチコーミングを楽しんだりもオススメ。リフレッシュできる時間になること間違いなしですよ。
ふんわりやさしくなんとも言えない香りと甘さがありながら洗練された軽さのある「富崎ベーカリー」のパン。周りの漁村の風景や素敵なお店の空間と一緒に、ぜひ味わいに来てくださいね。パンの雰囲気そのままの、ご夫婦も待っていますよ。
【店舗情報】
店舗名:富崎ベーカリー
営業時間:10:00~16:00
定休日:日・火・水
所在地:千葉県館山市相浜254
TEL:0470ー28ー0221
駐車場:4台