Vol.3 火とごはんを囲んで。台風15号から半年、復興しつつある「土の環」に人々が集う

公開日: 2020年03月23日

2019年9月9日未明、台風15号が千葉県南房総エリアを襲いました。コンパクトゆえかつてない暴風をともなったとされる台風で、私たちのまちは一夜にして被災地そのものになりました。あれから2ヶ月余り、いまだ町はブルーシートだらけ。AWANOの通常のサービスを再開できる状態にはありませんが、今の私たちにできることとして、館山市内の農家民宿「土の環(つちのわ)」の再生の様子を発信していくことにしました。「土の環」オーナーの土屋さんと地元ライターによる短編連載です。(全3回)


【バックナンバー】
台風15号を経て――“暮らしの学び”とワクワクに満ちあふれている農家民宿の再生

Vol.1 築100年の古民家が台風被害に。瓦降ろしから始めたら、自然素材がどんどん出てきた!
Vol.2 台風被害の廃材で薪棚づくり。捨てられてしまうモノに新たな役割を与える循環型DIY
Vol.3 火とごはんを囲んで。台風15号から半年、復興しつつある「土の環」に人々が集う(最終回)


「土の環(つちのわ)」とは

2018年から、古民家と農園を舞台に、宿泊と農体験、ワークショップの企画を行っている農家民宿。農のある暮らしとからだケアをテーマに、「“食べる”を楽しみ、からだを楽しむ」を共有、発信。
http://tsuchinowa.com/
https://www.facebook.com/tsuchinowa.tateyama/ 


人が集まったときに“あると楽しいもの”を作りたい

2月、「土の環」では「楽しくご飯を囲む会」が開かれました。かまどご飯、畑で採れた野菜やキノコを使った惣菜、手作り味噌のお味噌汁、手作りピザ、焼きマシュマロ…。たくさんの笑顔と「おいしい」があふれていました。そしてこの日、人の環(わ)に寄り添うようにあったのが、“かまどの火”でした。



かまどは、Vol.2で登場したトタン屋根の下の空間に作られていました。土の環では火を燃やしたりものを加熱したりするための「炉(ろ)」として、完成したかまど以外にもこれからアースオーブンを製作する予定です。

実は、台風が来る前にも、この場所にかまどがありました。「土の環に人が集まるときあると楽しいもの」をイメージし、“火”を思い浮かべた土屋さん。火を起こして調理し、それが食につながる。その道具として、もともとこの場所にかまどを作っていたのでした。しかし、粘土だけで作ったかまどは、台風15号で吹き飛ばされてしまいました。それなら、もっと強固なかまどを作ろう。そう思ったとき近くにあったのは、同じように台風で飛ばされた瓦、そして、屋根の改修作業で大量に出てきた瓦と粘土でした。


子どもたちと土遊び。瓦と粘土でかまど作り

かまどは、土台作りから始まったそうです。むき出しの土の上に直接かまどを作ると、重みで傾くことがあって水平を保てないのと、除草が大変になるからだとか。まずは土を掘り、30cm四方のコンクリート平板を敷き詰めていきました。土屋さんのモノ作りは、作るときのことだけでなく、それが不要になったときのことまで考えます。もしこのかまどが不要になったときや、移動しなければいけなくなったとき、コンクリート平板なら移動や再利用もできちゃうのです。

前回よりも強固なかまどを作るため、80枚ほどの瓦を重ねて骨組みを作りました。屋根から降ろした古い瓦は、厚さや曲線が異なっていたので、できる限り形がそろっているものを選んだそうです。それでも隙間ができるので、粘土で隙間を埋めました。



骨組みができれば、天板になる部分に木枠を作り、そこに粘土と15cmくらいにカットした稲ワラ、灰を加えて練りました。このときは仲間にも声をかけ、大人も子どももみんな一緒に足で粘土を練ったそうです。



台風被害の大きかった布良(めら)地区で活動しているボランティアも、瓦でできることに興味を持って参加してくれたそうです。



屋根の改修から、その廃材を使ったかまど作りまで、関わった人数は数え切れないほど。まだ完璧とは言えませんが、屋根は直ったしかまども再生することができました。火を使って料理もできます。関わってくれた人、心配してくれた人、応援してくれた人たちに、ここまできた土の環を披露して、感謝を伝えたい。そんな思いで開催することにしたのが、「楽しくご飯を囲む会」だったのです。


軽快な音楽と子どもたちの声が土の環に響く

「楽しくご飯を囲む会」当日、土の環に到着すると、子どもたちが風船やハンモックで遊んでいたり、大人たちがおしゃべりしていたりと、あちらこちらから楽しそうな声が聞こえてきました。庭に置かれたメインテーブルには、たくさんのごちそうが並んでいます。近づいてみると、「朝採れレタス・ブロッコリー&いももち」「ふろふき大根(自家製みそ・大根)」などと書かれた紙がありました。鮮やかな色どりの野菜を使った料理や、ビンいっぱいに詰められた手作りクッキーも。



近くにあるかまどでは炎が勢いよく上がり、お味噌汁と、炊き込みご飯を調理中。鍋を火から降ろすと、今度はもち米が入った蒸し器がやってきました。もう一方の火口では、スキレットでピザを焼いています。

会費にはピザ1枚分の料金が含まれており、自分で生地を伸ばしてスキレットに入れ、好きな具材をトッピングして渡すと、かまどで焼いてくれるというサービスを実施していました。想像してみてください。自分で伸ばして、トッピングして、火で焼いたできたてほやほやのピザを!



ご飯が炊けているかと、羽釜を火から降ろせばみんなが注目し、ピザを焼けば焼き具合をチェックしに訪れ、火が落ち着いたら焼マシュマロをするためにまた集まる。かまどの周りには入れ代わり立ち代わり人が来て、かまどの火と料理を思う存分楽しんでいました。

古民家の中ではギターやリコーダーを使った演奏が行われ、音楽を聞きながらマッサージを受ける人の姿も。つきたての餅を頬張り、ポップコーンを手に歩き回る子どもたちの姿が視界に入ります。私にとって、五感すべてがいやされる一日となりました。



時間をともに過ごす、土の環流留学体験

台風直後は仕事もできず、炊事、洗濯、子どもと遊ぶ毎日だったと言う土屋さん。自宅ではIHクッキングヒーターを使っているため、停電中はいつものように調理できませんでした。自宅にあった簡易かまどでご飯を炊き、カセットコンロを外に持ち出して子どもたちと一緒に料理をしたそうです。「そんなアナログな時間が、面倒だけど楽しさを感じて、とても濃い時間を過ごすことができた」と土屋さんは言います。


サザエたっぷりの炊き込みご飯の完成

健康のエッセンスを生活の一部に、楽しめる形でどう組み込むか。人によってはそれが畑作業だったり、火を灯すことだったりするのかもしれません。「できあがった作物をただ収穫するだけの体験ではなく、ホストファミリーのように時間をともにする関わり方をしていきたい」と話す土屋さん。土の環を訪れた人が、自分の暮らしにも取り入れられる何かを見つけて、持ち帰ってもらえる場。台風後は、その気持ちがより一層強くなったと言います。

「自分の体験を伝えることはできる」、そう言いながら、次なるミッションのアースオーブン作りに励む土屋さん。訪れる人の目を奪い、魅了した瓦のかまど。その隣にアースオーブンができて火が灯ったら、今度はどんな反応が巻き起こるのでしょう?


現在製作中のアースオーブン

今回の台風が与えた被害はとても大きいものでしたが、それ以上に学びや人とのつながりなど、得たモノも多かったと、この地に住む私は思いたいです。友人でもある土屋さんが営む土の環は、さまざまな環境に適応して進化しながら、そして訪れる人とともに過ごす時間を楽しみながら、これからも進んで行きます。


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